旬も食べ方も変わったイチゴ

私の小さいころ、イチゴは5~6月が旬で、今のようなプラスチックパックでなく、かわいい木箱にダナーなどのイチゴが入って売られていたのを覚えています。今のようにそのまま食べるのではなく牛乳と砂糖をかけてその中でイチゴはスプーンでつぶして食べたものです。イチゴの赤と牛乳の白が混じってピンク色になりとても美味しく大好物でした。それがビニール農業の発達と品種の変遷で、いまや旬は11月ごろから春にかけてと変わってしまいました。いままで作った品種も宝交早生をはじめ数え切れないほどです。最近の品種は休眠が浅く、糖度が高く、大きな実のものが多くなっています。特別の育苗処理をしないでも12月から実を収穫することができます。そして、もうつぶして食べることもなくなりました。



寝ぼけたイチゴの生長点は花芽になる

通常の栽培ではイチゴは5~6月ごろ実がなった後は生長点がランナーに変わり子孫を殖やすようになっています。イチゴの生理は国内各試験場等で詳しく研究され、多くの本も出ています。ふだんほとんど本を読まない私もイチゴに関しては何度も読み返した本があります。その参考文献は「作型を生かすイチゴの作り方」(木村雅行/大内良実著 農文協 昭和58年発行)です。中に記載された品種は古いけれどイチゴの基本生理は変わりませんので今でも参考になります。 簡単に言うとイチゴが休眠する11月中旬以前に温室栽培を始めるとイチゴは寝ぼけて半休眠状態になります。わが家の温室では最低5~12℃最高30℃の環境。最低温度が低いほど色付くのが遅くなります。この状態ではイチゴは花を咲かせ実をならせることをずっと続けます。栽培を打ち切らなければ、夏までなり続けたこともありました。この休眠前に植え付ける作型を促成栽培といいます。家の建て替えで2001年は植えつけが休眠後でしたが、その作型は半促成栽培といいます。その場合は一度眠ってから眼をさますので露地栽培と同じように一度実がなった後は生長点は花芽でなくごらんのようにランナーになりました。







苗作り

イチゴは親株から子株を採って翌年の栽培をします。ごらんの2001年は、半促成栽培だったのでハウス内で出て来たランナーを土を入れたポットに接地させ苗を殖やしました。促成栽培の場合はランナーが出ませんから、寒さにあたった親株からのランナーで殖やします。親株がない場合はメリクロン苗(※注)が時期になると出回るので種苗店から購入できます。 接地させるのには余分のランナーをヘアピンのように折り曲げてランナーの先を固定する方法が簡単です。すぐに根が出て来ますから、ポットの底穴から根が見えるころになったらランナーを3cmくらい残して親株から切り離します。

(※注) メリクロンとは造語で組織培養体のことで、細胞分裂をくり返す生長点にはウイルスが侵入していないことを利用して、生長点培養によりウイルスフリーの株を得ることができます。イチゴでは一般化した手法で、親株として売られているものはほとんどがそうです。しかし、栽培をくり返す内にアブラムシ等が媒介するウイルスに感染し、3年ぐらいで在来の株と変わらなくなると言われています。

親から切り離した子苗は畑に植えて秋までに大きく養成します。肥料はボカシとゴミ汁液肥とたまに天恵緑汁を薄めてじょうろでやります。葉色も良く元気な苗ができます。良い苗を作ることは大事なポイントの一つです。





植え付け

自然な状態で秋冷の9月末頃にはイチゴの花芽はできていますから休眠に入る前までに温室に植え付ければよいのです。
用土は底に排水を良くするため大粒の軽石を入れ、腐葉土を主体に赤玉や軽くするためパーライトや菌の住処になるゼオライトなどを適当に配合してボカシ肥を入れています。





イチゴの株から芽が出る方向は決まっています。親から切り離したランナーの痕跡とは反対側に花が出て来ます。植える時はクラウンと呼ばれる根茎が隠れるように植えます。そうすることで湿り気により根茎から元気な一次根が出ます。この一次根を出させることが長期どりのためにも株の勢いを維持する上で大事なポイントになります。




人工受粉

やがて11月にもなると一番花が咲き始めます。自然界や営利栽培では受粉はミツバチなどが行いますから手間いらずですが、その条件がない温室では人工受粉をする必要があります。人工受粉は絵の具の筆で花粉をハチがするようにまんべんなくくるりとまわすようになでてやります。花粉の付き方がまばらになるときれいな 形にならず奇形果になってしまいます。そのようなものは大きくなる途中でわかりますから取り除きます。




ナミハナアブ

2005年より人工授粉から解放されました。冬になる前にいろいろなハチやアブを温室に連れてきて観察した結果、ナミハナアブがイチゴの受粉に適していました。それ以来、毎年11月に畑からナミハナアブを連れてきて温室に放すと春まで受粉をしてくれるようになりました。


収 穫

受粉して約1ヶ月、大きくなって白い実が先の方から赤く色付きます。赤くなって2~3日よい香りがするころが採り頃です。冬なので昼と夜の温度較差も大きいのでたっぷり糖度ののった、それは甘く美味しいイチゴが採れます。つぎつぎと花芽分化がつづきますからゴミ汁液肥を薄めて定期的に潅水とともに与えます。




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